救急救命士 厳重注意処分
栃木県鹿沼市の救急救命士が個人の判断で気道確保器具を使用したため注意処分とし、当分の間救命士活動を停止する。患者は搬送先の病院で死亡した。消防本部は「すでに心肺停止状態であり、器具挿入による容態の悪化はありえない」とみている。という記事が6月9日の下野新聞に載っていました。
救急救命士法は特定医療行為を行うには
1. 心肺停止状態であること
2. 医師の具体的な指示を受けること
が必要条件と定めています。
現場で心臓が停止して自発呼吸がない患者を前にして、いちいち医師の指示を仰がなければならないのです。今直ちにやるべきことは明白なのに医師の指示があるまでじっと待たねばならない現場の苦悩は察するに余りあります。医師にしても、患者も診ないで救急隊の情報だけで「具体的な指示」を出さなければならない理不尽な状況にあるのです。
「器具挿入による容態の悪化はありえない」という医学的判断を下した消防本部は医師法に抵触してはいないでしょうか。消防本部が患者の予後の判定まで断言できる医学的見識をお持ちであれば、医師ではなく「本部長の指示を受けて」と法改正すべきです。
2001年、秋田の食道挿管による死亡事故以来、救命士による気管内挿管は医師会や麻酔科学会の批判に晒されて来ました。
青森では医師の指示を受けた上で行った挿管処置が非難されました。朝日新聞がことのほか熱心に糾弾しました。下北消防本部は「医師法違反になるので厳重に注意した。今後は挿管チューブを救急車に常備しない」そうです。職務放棄宣言です。
法令に準じて職務を果たせば厳重注意です。こんな理不尽な話はないでしょう。それを大々的に取り上げて批判する朝日の神経もおかしいです。今後は救命処置を行わないと宣言して恥じない本部長こそフトドキ者で、厳重注意されるべきです。
医師の指示を待たずに行った栃木県では厳重注意。
医師の指示に基づいた青森県でも厳重注意。
こうして救命士の情熱は削がれ、士気は低下して何もしない搬送係と化すのです。
日本がモデルとした米国のパラメディックは医療行為を自分達の判断で行っています。
日本では救急救命士の配置、高規格救急車の整備など、一見進歩したように見えても肝心なところがおろそかになっているのです。
形式主義、当事者責任の回避、患者無視を原則とする日本方式救急体制が今後も続くとすれば、この国に生まれた不幸を嘆く他ありません。
この話、昨今続発する産科医逮捕事件にどこか似ていると思いませんか? |